Interview
化学は「すべて」につながる。
+αの経験と知識で「化学反応」を起こしていく。
化学系エンジニア
エンジニア略歴
- 2006年新卒入社、半導体ウエハーの生産技術開発・プロセス設計
- 2010年~分析機器・医療用品関連製品のマイクロ流路デバイスの開発
- 2013年~モバイル向け液晶ディスプレイの製品技術、解析、物流管理
- 2015年~自動車用ネオジム磁石の開発
生命工学から分析化学へ
興味を広げた学生時代。
「一つの技術を突き詰める」ということは、時として、そこから広がる自分自身の可能性を見逃してしまうことにもつながる。考えてみると、技術の蓄積によって得たものを活かせる場所は、幅広くある。そんな経験を重ねてきた。
「子どものころからパソコンが家にあり、母親が化学系エンジニアだった関係で、技術的な単語には親しんできました。私自身は直感的に理解できるという理由で、物理よりも化学の方に引かれていきました。数式を見ても、ものの動きはイメージできませんが、化学式を見て『亀の子』を見るとすぐに理解でき、化学を選ぶというのは、私にとっては極めて自然な選択でした」
大学から、大学院修士課程まで化学専攻。学部時代には生命工学を専攻し、筋ジストロフィーを遺伝子的にひもとくために、DNAと糖鎖の配列から症状とのつながりを探っていった。
大学院では、分析そのものに興味があり、より基礎的な研究分野へ。二種類の高分子(親水性、親油性)を配合することで、性質がどう変化するか、仮説を立て、実験し、検証する作業を延々と繰り返した。自分の予想した結果になること、また異なる結果が得られたときに「なぜ」と探っていくことが面白かった。しかし、就職先を選ぶ段階になり、よりものに近いところで仕事をしたいと考えた。
「性格的には広く浅く知識を増やしていくというのが好きで、一つの企業に入ってしまうと、同じ仕事しかできなくなるのが心配でした。当時の趣味は自動車で、いつかその分野にかかわりたいという気持ちもあり、多くの選択肢が用意されていたメイテックに入社を希望したのです」
教訓時代に感じた、
専門知識にこだわる限界。
入社して最初の業務は、半導体メーカーで、原材料となるシリコンウエハーの開発プロセス設計に携わる。
「一見、化学の知識とは接点のない世界でしたが、分析の考え方は活かすことができました。イレブンナインと言われ、99.9%の後に9が8回並ぶ精度が求められる半導体の世界。熱処理の条件によって起こる品質への影響を予測・実験・計測し、解決策を考えるという仕事は、面白かったし、成果を出すこともできました」
いったん、製造部門に異動し、コストダウン業務にかかわったが、その後プロセス設計に戻り、業務に充実感を感じていた。
だが、そのタイミングでリーマンショックが起こる。2年9ヵ月継続したお客さま先での業務が終了し、教訓エンジニアに。
「最初の業務で評価され、自分としてはそれなりの仕事ができると思っていたので、『てんぐ』になっていたのかもしれません。先輩にアドバイスをいただいても、すんなりと心に入ってきませんでした。リーマンショックにより、自分の分野だけでなく、他分野の知識も取り入れようとする先輩がいる中で、当時の私は化学へのこだわりを持ちすぎていたのだと思います。でも、今になってみると教訓期間に物理、電気、機械など幅広い知識を獲得しておくことができれば良かったのに、と思い返すことが数多くあります」
教訓生活は1年半続いた。厚木テクノセンターで化学系エンジニアの集まるグループで研修をし、知識を得ていくことには充実感も感じたが、やはり、早く業務に就きたいという焦りや不安もあったという。
装置開発で化学知識を活かした。
プロジェクト推進能力も獲得。
待ちに待っていた舞台は、大手エレクトロニクスメーカーと政府の合同プロジェクトとして行われてきた細胞分析装置の開発。iPS細胞のような新技術開発を念頭に入れたものだ。従来の分析装置が、細胞内の成分を染色することで選別するのに対し、染色せずに行う。染色をしないので、生体実験にも活用できる。
「お客さま先の要望としては電気関係のスキルを持ったエンジニアを受け入れたいということでしたが、私が生命工学のノウハウを持っているということが分かると、ぜひ来てほしいと。装置の一部の設計のみならず、材料の特定などの仕事を通して、化学系ならではの提案もできたと思っています」
この仕事も2年9ヵ月にわたり、製品化に向けての道筋が見えたところで契約が終了。だが、次のお客さま先では、再び化学とは離れた製品技術の業務に就くこととなる。
タブレットやスマートフォンに使われる液晶パネルの製造企業。国内工場でガラス上に配線を行い、カラーフィルターを貼り合わせ、中国の提携工場に送り、偏光板を貼って製品となる。製造管理のための調整が主な業務となった。
「ものや技術を相手にするというよりは、人を相手にすることがとにかく多い仕事でした。お客さま先との調整や段取りが中心。液晶パネルの製造プロセスに関する知識を得ることはできましたが、やはり自分では、化学の知識を活かせる業務をしたくて、業務変更を希望することになりました」
蓄積を活かしつつ、新しい分野で
可能性を追求していきたい。
2015年1月、新しい業務が始まった。自動車メーカーなどに製品を提供する素材メーカーでレアアースであるネオジムを使った磁石の開発だ。
「最初にエンドユーザーから、磁石のスペックが与えられます。モーターを小さくしたい、そのためには、軽量で強力な磁石が必要になります。また、自動車に使用する場合なら、周囲の温度が摂氏200度以上にまで上がるので、熱にも強くなければいけない。試行錯誤を繰り返しながらものづくりを行っていく業務は、厳しさもある一方で私の性に合っています」
最終製品は、鉄粉とネオジムを混ぜて出来上がる。職場では実際に、いろいろな配合で、性質がどのように変わるのか、材料を焼き固めて実験を繰り返し、仮説を立て、量産までの道筋を付けていく。
「考えてみると、仮説を立て、実験し、検証する作業を繰り返した大学院時代とよく似たことをやっていますね(笑)。一方で、時間は限られていて、一刻も早く結果を出さなくてはいけません。そういう意味では、製品技術の仕事を経験して、段取りや工程を学んだことが、役に立っている気がしています」
「ここまで、自分は化学系のエンジニアであるというプライドを持って仕事を続けてきましたが、考えてみると、技術に関するどんな仕事でも化学の知識を活かして働くことはできる。極端に言うと、機械設計だとしても、材料に関する知識があることでアウトプットは変わってきます。すべてのものづくりにおいて、分子や電子などの物質レベルの知識にさかのぼる視点が必要となっている時代。これからも視野を広げていきたいものです」
航空宇宙産業やリニア新幹線の仕事をしてみたい。そして、もちろん自動車にも興味がある。その知識と経験の蓄積により、坂井さんは「ケミストリー=化学反応」をこれからも起こしていく。
※当社社内報「SYORYU」:2015年夏発刊号に掲載した記事です