Interview
シンプルかつ合理的に、現象を再現する解析技術の価値を追い求める。
機械系エンジニア
エンジニア略歴
- 2001年新卒入社
- 2001年~液晶カラーフィルター量産技術の開発
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2004年~自動車ドアパネルのへミング解析
航空機胴体構造の強度解析 - 2007年半導体露光装置の構造強度・伝熱解析
- 2011年~航空機の翼構造等の強度解析
- 2012年~半導体加熱・加圧装置の構造強度、伝熱解析および制御シミュレーション
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2013年~真空チャンバー、シャッターの強度解析
半導体露光装置の構造解析および流体解析用モデル作成 -
2014年~アトラクション用のFRPボートの強度解析
熱流体解析のための3次元モデル修正
真空チャンバー、圧力容器の強度解析
鋼板モデルのシステム同定 -
2015年~アトラクション用のボートフレームの強度解析
半導体露光装置の構造解析
アイスホッケー部に属しつつ、
最先端に挑んだ学生時代。
あらゆる現象は物理法則に基づいている。その一方で実際の製造現場や製品設計においては、影響を与える要素があまりに多く干渉し合うため、すべてを数学モデルで解析するのは不可能に近い。實松さんはその不可能と常に格闘しながら、解析でさまざまな開発現場に価値をもたらしてきたエンジニアだ。
福岡県で生まれて、工業高校から大学の電気工学科へ。ここで卒業論文テーマとしてシステム同定を選ぶ。産業プロセス制御に対し、広い運転範囲にわたって高い同定精度を有する数学モデルを構築する。その手法として、Wavelet(ウェーブレット)解析という新しい解析法を使う先端的な研究だった。
「内容よりも指導教授に惹かれての選択でした。厳しい教授でしたが、指導に筋が通っていました。漠然とした質問には、考えずに聞くなと意見される。単に結果をまとめるだけでなく、その結果が持つ理由を理解していなくては問い詰められる。考えて理解し、まとめ上げていくその積み重ねが、私のエンジニア人生に与えてくれたものは大きかったと思います」
大学時代はアイスホッケー部に所属して、日々厳しい練習を続けながら学資稼ぎのアルバイトもした。夜通し働いて朝から研究室に行く、ということも多かった。その後、大学院で同じテーマを突き詰めていく。多忙な学生時代だったが、鍛えられるものも大きかった。
「聞くは一時の恥」と、がむしゃらに
技術を広げた新人時代。
「大学院を修了するにあたって考えたのは、このまま一つの分野を突き詰める技術との付き合い方でいいだろうか、ということでした。多彩な技術領域で経験を積んでみたいと思い、メイテックなら多彩な業種にかかわれるということを知りました。それが最大の応募理由でしたね」
果たして最初に配属されたのは、大学院での専攻とはまったく畑違いな事務機器メーカーの研究開発部門だった。
「その会社では、従来インクジェットプリンターに関する幅広いノウハウを持っていました。それをデジタルカメラ用の液晶パネルに転用できないか、という開発が進められていました」
すでにある基本設計をもとに、製品化のための細かい部分を煮詰めていく仕事。プリンターで使われているインクを吹き付ける技術で、カラーフィルターとその保護膜を形成する。その液晶パネルの量産プロセスの開発業務だった。
「まったくゼロから学習していくことが必要な分野。がむしゃらに文献や技術資料を読みあさり、何とか理解しようと悪戦苦闘を続けていきました」
それはちょうど学生時代、スケートを滑ったこともなかったのにアイスホッケーを始めた苦労にも似ていたと言う。しかし、収穫もまた大きかった。
「職場の上司によく言われたことは『聞くは一時の恥』ということでした。無駄に考えずに周囲を頼れ。そのような職場環境に助けられた部分も多くあったと記憶しています」
シミュレーションと解析を
多彩な分野に広げてきた。
最初のお客さま先で3年間働き、最終的に自分の担当業務を任されるようになっていた。お客さま先からも契約延長を望まれていたが、そのころにはシミュレーションの仕事を経験したいという気持ちが強く芽生えていた。
「担当を持つようになったころ、プロセス評価のために品質工学を使って試してみたもののうまくいかない。職場の上司の勧めで、あるセミナーに参加しました。講師に相談して、シミュレーションの考え方が使えると分かり、自分で偏微分方程式を立てて試してみたらいい結果が出た。それがシミュレーションに関心を持つきっかけになりました」
当時、メイテックには解析EC(現在のCAEセンター)という部署があり、シミュレーションを主とした業務を担当していた。ここに異動した實松さんはそれ以来、同じ領域の業務を担当している。
エンドユーザーからの依頼を受け、製造プロセスや完成品について、システム支援によりシミュレーションを行う。例えば「製鉄工場において長寸の鋼材を使用する場合に生じるしなりの振動解析」「航空機の強度計算」「半導体露光装置の構造解析」、珍しいものでは「テーマパークの乗り物の強度解析」というものもあった。
10年後も20年後も生き残る
解析技術を追求していきたい。
「シミュレーションとは数学モデルの組み合わせにより、現象を再現しようというものです。精度を求めていけば永遠にゴールがない世界とも言えます。その一方で、スタート地点でより適切な数学モデルを見つけることができると、はるかにコンパクトなモデルで現象に近く、お客さまのニーズにも即した結果が得られるものです」
そのことを痛感したのは、光学機器メーカーの製造プロセス解析で、真空中での熱とひずみが及ぼす影響を解析したときのこと。解析データと試作品をつくって、実験した結果が面白いほどに一致しない。そこで文献を探り、これまでとは異なる境界条件とよりシンプルなモデル化手法をお客さまに提案し、再チャレンジしたら予想外の好結果となった。
また航空機の強度を解析した時には、計算データに基づき強度をもたせるために骨格材で補強した結果、かえって強度不足になってしまうこともあった。
「航空機メーカーのエンジニアに言われて分かったのは、バランスが大切だということ。強くするために局所的に補強するという考え方だけでは、全体としてのバランスを悪くしてしまうことに気が付きました」
幅広い分野の解析業務を通じて、よりお客さまのニーズに応えるための技術と経験を積み重ねてきた。しかし同時にお客さまからのコストプレッシャーも感じている。「見積もりを出すと『試作品をつくったほうが安いよ』と言われることもあります。CAEへの期待がそこにあるからです。ですから単なる計算屋で終わることなく、お客さま先の業務にとって必要なものは何か、ということを見すえた付加価値提案が必要です」
今期からCAEセンターのマネージャーとなった實松さん。その活動を通じてほかのエンジニアと技術交流を深めていきたいとも語る。
「何といっても、6800 人を超えるエンジニアがそれぞれ専門領域を持っている。技術交流により自身の幅を広げることで、困難な時代に向けての突破口も見いだせるのではないかと、期待しています」
どんな山も高ければ高いほど、どのように登っていくか考えるのが面白い。まだ道半ば、さまざまな困難を楽しみながら、その枠を広げ続けている。
※当社社内報「SYORYU」:2016年夏発刊号に掲載した記事です