Loading

Interview

無機から有機へそしてまた無機へ。
幅を広げた、再び深く掘るために。

化学系エンジニア

齊藤 誠博

エンジニア略歴

  • 2004年新卒入社
  • 2004年~インダクター用磁性粉含有樹脂開発および工程設計
  • 2010年~リチウムイオンキャパシター開発
  • 2013年~医療機器の試験法および滅菌バリデーション

新しい風を入れたいと
就職を選ぶ。

エンジニアとしてのキャリアを確立していくためには、専門分野を徹底的に掘り下げる方法もあれば、技術の幅を広げる方法もある。
齊藤さんは「掘り下げる」「広げる」のどちらにも自分なりに楽しみを見いだして道を開いてきた。

「中学時代からの実験好きが高じて化学の道へ。大学、大学院と無機化学を専攻しました。所属した研究室では工業用触媒として使われる金属酸化のモデルであるポリ酸を研究。メンバーそれぞれが一つの金属を担当し、私の担当はバナジウムでした。条件を変えて合成し、構造解析をする。酸素に触れて酸化してしまわないよう不活性雰囲気(※)の密閉ガラス器の中で反応させ、合成‐結晶化‐構造解析を繰り返しました」
 
当時はまさに実験の虫だった。夜遅くまで研究室に残り、日曜日も返上して実験をしていたこともある。
2回の学会で発表する機会も得、他大学で同様の研究をしている研究者ともネットワークが広がっていった。

そんな齊藤さんだけに、進路についても当初はそのまま博士課程に進むつもりだった。その心境が変化したのは修士課程も終盤のころだという。

「製品として世に出すことで化学を活かすのも面白いのでは、と感じ始めたのです。研究に伸び悩みを感じていたこともあり、このまま大学に残るより、これまでとは違う経験をして、自分の中に新しい風を入れたいと考えました」
 
博士課程でなく就職へと方向転換。
「入社するなら、生涯手を動かして実験ができるところへ」と、メイテックへ入社した。
(※)不活性雰囲気:酸素をアルゴンなどの不活性ガスに置き換えた気体で満たすこと

接着剤開発で
一から有機化学を学ぶ。

最初に配属されたのは電子部品メーカーの設計開発部門。
ゲーム機から携帯電話、ブルーレイプレイヤーまで幅広い機器に使われるインダクターという電子部品の接着剤開発を任された。

「市販の樹脂接着剤をベースにして新たな機能を付加する開発です。接着剤に磁性粉を配合し磁力を持たせる、薬剤を配合して膨張を押さえる、流動性を高めるといった成分開発だけでなく、工場で製造するためのプロセス設計も担いました」
 
学生時代の専門は、無機化学。それがいきなり樹脂という有機分野の高分子化学の仕事。
有機化学も生産技術も初歩から学ばなくてはいけなかった。

「苦労といえば苦労ですが、大学では学べなかった分野を実地で学べる機会。これまで知らなかったこと一つ一つが、着々と知識に変わっていくのは楽しかった。配属された時、お客さま先の上長からいただいた『思う存分樹脂で遊んでみればいい』という言葉も背中を押してくれました」
 
知らないことを知っていく、そして幅を広げていく姿勢で業務は6年続くことになる。
その間に、お客さま先で製造されるインダクターは、月産数百万個から数億個にまで拡大した。大半は齊藤さんがかかわった製品だった。
 
フィリピンでの製造立ち上げも担当した。
高温多湿な現地では、日本とは製造条件が異なり、日本でつくった検証結果の再現に悩まされた。
コミュニケーションでは通訳を通すと逆に話が通じないという経験もした。
身振り手振り、筆談も交えて、樹脂や溶剤について説明し、意思疎通を図ることができたのは良い思い出となっている。

3次元CADをマスターし、
不況下にチャンスを得た。

リーマンショック後の不況がまだ尾を引いていた2010年に契約が終了し、齊藤さんも8ヵ月の教育訓練を余儀なくされた。
その間に受講した研修の一つが3次元CAD。一見化学とCADに接点はないが、結果としてその努力が扉を開き、リチウムイオンキャパシターの開発に携わることになる。

「短時間に急速充電を行い、高電圧を出す大容量蓄電システムです。複数のメーカーで組合をつくって開発を進めており、私が配属されたのは電極を封入するケースの担当メーカーでした」
 
ケースに使う接着剤の経験があり、さらに業務で使用する3次元CADも使えるということが決め手となったのだ。
 
どの接着剤を使えば中身が漏れない? 強度は? 充放電を繰り返しても問題ない耐久性のある材料は? など試行錯誤を重ねた。
試作に必要な部品発注を担当し、相見積もりをとり、価格交渉をすることもあれば、複数の企業が絡む組織の中でネゴシエーションも必要となった。

「開発の旗振り役を務めていた大学の先生の考えで開発方針が動くことがよくあったのです。とはいえ開発にはあるべき方向というものがありますから、それを見越して独自に準備をしておいたり、お客さま先の上長に『こうすべきでは?』と進言したりもしました。個人的には価格交渉がきつかったですが、こうしたやりとりの中でさまざまなメーカー担当者との人脈もできていきました」

いつか、セラミックの可能性を
徹底的に掘り下げたい。

現在は医療機器メーカーの品質保証部門で業務。品質検査手順の具体化や滅菌プロセスの設計を担当する。

「注射器や点滴から樹脂が溶け出したりしていないか、人体にかかわる医療機器だけに精度の高い試験が求められます。材料メーカー、製造場所や機械など、何か製造に変化がある度に試験内容を見直し、JISやISOなどの規格にのっとった試験をした証明も必要です。また、試験作業自体は化学の知識がない作業者が行うため、誰でも常に正しく検査を行える手順をつくらなければなりません。専門用語を使わずに、薬品の扱い方や保護メガネの着用の有無など、一から十まで言語化し手順書にする際の表現の仕方は今でも苦心します」
 
品質保証で評価データを使うため統計学の知識を増やし積極的に活用しているほか、完成品を放射線で滅菌する工程設計も担当し、業務と経験の幅はさらに広がっている。
 
エンジニア人生を振り返ってみると、大学では無機化学を掘り下げ、メイテック入社後は有機化学を軸に技術の幅を広げてきた齊藤さん。
しかし、この先は大学で学んできた無機化学の分野に戻り、再び掘り下げていける業務に就きたいと希望する。

「触媒やセラミックの業務に就けたらいいですね。特にセラミックは配合や焼き方により、宇宙船の耐火素材にも電子部品にもなる。近い将来、月の土を使ってセラミックをつくり工場を建設する、なんて話も聞いたことがあります。そんな分野で自分がどこまでいけるか、エンジニア人生をかけて、無機化学を深掘っていきたいと思っています」
 
すでにローテーションに備え、EC(営業所)と相談を進めているという。
技術書や論文を集めたり、セラミックを専門にしている同期に話を聞いたりと準備に余念がない。
未知の分野で幅を「広げた」齊藤さんの経験が、一つの分野で技術を「深堀る」ことに活かされるのも、もうすぐだ。

※当社社内報「SYORYU」:2017年夏発刊号に掲載した記事です

エンジニアインタビューをもっと見る