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2007年6月 (社員向け)月例社長メッセージ

市場の考察:薄型テレビから思うこと

新聞報道によると、今年の3月までに日本では薄型テレビの世帯普及率が約30%になったそうです。また、全世界の テレビ市場は現在約2億台ですが、今年か来年にはブラウン管テレビよりも薄型テレビの比率のほうが高くなると予測されています。薄型テレビが市場に出始め た5年ほど前は、1インチ1万円を切らないと普及しないと言われていましたが、すでに1インチ1,000円を目ざす競争に入ったとも言われています。一人 の消費者としては、高品質の製品が安く購入できるということは喜ばしいことですが、開発や生産に携わっている人たちにとっては過酷で熾烈な競争と言うしか ありません。私は家電量販店に行くたびにあらゆる商品価格の安さに驚きながら、同時にエンジニアの皆さんやメーカーの皆さんの気持ちを考えてしまいます。

1990年代後半にブラウン管テレビだけの時代であった頃、「平面テレビ」(ブラウン管の表面がフラットなテレビ)という商品によって世界市場でトップ シェアを持っていたある日本メーカーが、薄型テレビで出遅れてしまったのは有名な話です。そのメーカーは薄型テレビの中核部品であるパネルの開発におい て、液晶やプラズマは本命技術ではなく過渡的な技術と判断し、その一歩先を行く有機ELを使ったパネル開発に注力したからだとも言われています。しかし、 実際には瞬く間に液晶テレビやプラズマテレビが市場に普及したわけです。本当に技術のトレンドや市場の変化、消費動向などを予測することは難しいと思わせ る事例のひとつです。

しかし、こうした事例から私たちが教訓とすべきは、「未来予測は難しい」ということではなく、「成功体験の恐ろしさ」だと考えます。おそらく1990年代 の後半において、世界市場でトップシェアを持っていたこと自体に陥穽(かんせい)があったのではないでしょうか。「世界市場でトップの自分たちが他のメー カーに負けるはずがない」「自分たちがブラウン管テレビの最先端を行っているのだから、次世代テレビでも当然に自分たちがフロントランナーになる」「液晶 やプラズマがそんなに簡単に低価格にできるはずがない。液晶やプラズマの価格競争力ができる前に、液晶やプラズマを越える新技術でまた市場を席巻すればい い」などなど。これらは私の推測ですが、自らの成功体験が大きければ大きいほど、その成功体験そのものが周囲を見えなくさせてしまうことは、よくあること です。たとえば、液晶やプラズマで新市場に挑戦したメーカーは、自社の存続を賭けていたかもしれません。その商品がヒットしなければ会社がなくなってしま うという危機感が全社で共有されたときには、人も企業も、ものすごい力を発揮するものです。つまり現在トップであることは、将来もトップであることの保証 ではないということです。

また、薄型テレビで出遅れたメーカーがそのまま敗退していったかというと、そうではありません。韓国のメーカーと液晶パネル生産で提携し、昨年には、世界 市場第二位まで巻き返しています。同時に、本命としていた有機ELパネルの超薄型テレビを年内には発売することを発表しています。あるいは、SEDという 新技術で挑戦する準備をしている企業もあります。まさに、勝者敗者が入れかわり立ちかわり、ますます過酷で熾烈な競争が続いていくのでしょう。これは決し て他人事ではなく、当社もトップカンパニーのポジションに溺れることなく、奢ることなく、常に冷静に市場の変化を見据えて、自分たちの力を高めていきたい と思います。

ところで、新卒入社面談を行っていると、「将来は自動車の設計がしたい」、「液晶テレビの開発の仕事がしたい」という声を、ときどき聞きます。しかしなが ら、よく話を聞いてみると、日本の自動車メーカーは世界市場で勝っているからとか、液晶テレビが売れているから、という理由であったりします。どうしても われわれ人間は、今眼の前で起きていることや、自分の眼で見えていることを中心に物事を考えがちですが、今だけではなく未来にも眼を向けることや、自分に は見えていないものを見ようとする努力をしたほうが、よい結果が得られるということにも気がつきたいものです。

以上

メイテックグループCEO
代表取締役社長 西本甲介