2024年3月 (社員向け)社長メッセージ
意図した機能の安全性
JAXAが開発したSLIM(Smart Lander for Investigating Moon)が、2024年1月20日に世界で5カ国目となる「月面着陸」に成功。それも、世界初のピンポイント着陸に成功し、日本の高度な技術力を世界に証明することができました。SLIMは、「降りたいところに降りる」という探査の新しい扉を開いたのではないでしょうか。
このプロジェクトには、多くの日本企業やエンジニアが結集し、横断的に連携することで実現しました。例えば、SLIMの姿勢制御システムやレーザー測距儀、探査ロボットの移動機構やカメラなど、日本の技術力が生かされた部分は数え切れません。成功確率を高めるために、何度もシミュレーションを積み重ねた結果だと言えます。
その中でも重要なのは「フェールセーフ」という設計思想であり、「機械やシステムその他人間がつくり出すものには、必ず事故や誤りが生じる」という前提に立ったもの。今回のSLIMの月面着陸においても、メインエンジンが一つ使えなくなる重要なトラブルが起こった際、速やかに異常モードに移行できたことが、偉業達成につながりました。
モビリティ開発において、100%安全なものなどありません。だからこそ、成功確率を高め100%に近付ける努力をするのです。航空機は、飛んでいる際に事故が起きると即時停止することなどできませんので、極めて危険なモビリティと言えます。しかし、米国家運輸安全委員会(NTSB)の調査によると、航空機は自動車より安全であることが数字で示されています。
その理由は設計思想にあります。航空機は、通常四重のフェールセーフ構造で設計されています。一つの部材が破壊しても他の部材に影響を与えない構造や、一つの大きな部材の代わりに二個以上の小さな部材を結合する構造などです。事故を未然に防ぐ、そして起きた事故をリカバリーできる、意図した機能の安全性を担保しているのです。
宇宙産業は飛躍的な成長が見込まれています。米国では、2024年2月23日に民間企業初の無人宇宙船の月面着陸が成功するなど、これからは民間企業が主役になっていくでしょう。私たちは、将来を見据えて、バックキャスト思考で新しい産業を創る。そして、人類が安心して、安全に宇宙を旅したり生活したりできる環境を実現していく。そのような、エンジニア人生を賭けて挑戦する価値ある仕事をしていくことを期待しています。
代表取締役社長
國分 秀世